営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道II-第四話
作成者 admin
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最終変更日時
2010年12月13日 08時15分
もいちろうが語る「営業マネジャー成長の物語-おもしろい営業への道Ⅱ」
第4話「部下の成功と叱ること、ほめること」
営業所長となって1年ほど経った頃、私はある悩みを抱えていた。メンバーにもっとやる気を出してもらうために、いかに叱り、ほめるか、ということである。何も難しい話ではない。例えば、若いメンバーがやたら遅刻をする。言っても、言っても、頻繁にやってくれる。
私は遅刻したメンバーにこう言ってみた。
「酒井くん、ダメだよ、そんなじゃ。仕事上、いろいろ響くよ」
「はい。すみません」
しかし、次もまた同じことが起こる。優しく言っても効果がない。
若手だけではない。ベテランもミスをする。例えば、お客さまとの約束を忘れる。社内の技術部門への連絡を忘れる。メモをとればすむような簡単なことなのだが、忙しさの中でつい忘れるのだろう。
本当は、「おまえ、何やってんだ!」と怒鳴りたい。だが、マネジャーたる者、感情的になってはいけない、という思いが私自身にある。もともと短気な性格なのは自分でわかっているので、かえってセーブしてしまい、どうもうまく叱れないのだ。
ほめることについても私は悩んだ。『ほめられると、その後なんとなくやる気にはなるよな』…自分がメンバーだった時のことを思い返してみれば、ほめることの効用も少しはわかる。ただ、真面目にほめるのはどうもくすぐったい。当然、不自然でぎごちなくなってしまう。
ある日、私は電車の中で偶然、昔の先輩に出会った。
「おぅ、営業所長になったんだってな。どんなマネジメントやってんだ?」
「率先垂範です」
先輩は笑いながら言った。
「それも大事だけど、他にもあるだろ、もっと大切なことが・・・」
「率先垂範で引っ張っていけば、営業所はうまく回ると思いますが・・・?」
私は先輩は一体何を言いたいのかなと訝しながら答えた。
先輩は、笑いながら、「率先垂範は新任所長だったら当然だな。でもおまえはもうマネジャーだ。マネジメントしなくちゃ」と言った。
私は「うーーん」と唸ってしまった。
先輩: 「じゃあ、一緒に考えてみるか。メンバーが全員成功したら、おまえはどうなる?」
私: 「まぁ・・・・・・だいたい成功しますよね」
先輩: 「じゃあ、営業所の目標も達成できるかな」
私: 「はい、達成できます」
先輩: 「だったら、おまえはなにを考えて仕事するんだ」
私: 「メンバーの成功ですか?」
先輩: 「そう、それだけだよ。おまえはメンバーのためだけを考えて動けばいいんだ。
そうしたら自分も自然と成功する」
これは、これからのマネジャーとしての人生を貫くすごい指針だった。マネジメント上で困ったことが起こるといつも頭に浮かぶわたしの価値基準となったのである。
ちょうど悩んでいた部下とのかかわりに関しても、霧が晴れるような感じがした。
『そうか、そのメンバーを成功させてあげようという気持ちで叱ればいいんだ。ほめるのも、その人にまた成功体験を繰り返してほしいと思えばいいのか。うん、そうだ』
これで叱るときの心構えはできた。
今度は叱り方だ。メンバー時代、上司に叱られた時、自分が反発したのは、言われた内容に反発したわけではなかったことに私は思い至った。反発したのは、言われ方と言われた時の状況だった。私の頭にはあるアイデアが浮かんだ。
数日後、酒井くんがまた遅刻した時、私は早速試してみた。まず彼の成功のために叱るということを心で一度刻む。その上で、
「酒井ぃ〜、また遅刻かぁ〜。何回繰り返すんだよぉ〜!」
私はできるだけ語尾を伸ばして言った。そうすれば、言葉自体はきつくても、トーンはやわらかくなる。全員の前ではっきりと叱るのだ。伝えるべきことは伝え、しかし自分の感情はあらわにせず、深刻にならないようにする……若手には、これは効いた。
『だけど、まさかこれはベテランには通用しないよなぁ』
私はまた考えた。
ベテランの営業がミスをした時、私は彼を別室に呼んだ。「今こんなこと続けてると、おまえの持ってる強みが消えるぞ。すごいもったいないことしてるんだぞ」
「すいません……」
彼は素直に頭を下げた。ベテランの場合、ミスはミスだと自分でわかっている。もちろん、皆の前で叱られるのはプライドが許さない。だから、ベテランにはまず良い面を認め、それとセットで叱ることにした。プライドを傷つけず、もっとやる気になって成功してもらうにはどうしたらいいか、私なりに考えたのだ。
ほめるほうもあれこれ考え、ある日の同行後にこう言ってみた。
「さっきのトークよかったなぁ。お客さん、あのあとすごく変わったよね。どこで身につけたの?」
そのメンバーは謙遜したが、しかし、まんざらでもなさそうだった。
こう言えば、彼は今成功した理由を自覚し、同じような商談の時に次もまたやってくれるだろう、と私は思ったのだ。
何かをつかんだ気がした私は、人を介してほめるというテクニックも考え出した。あるメンバーについてのほめ言葉を、本人ではなくリーダーに言ったのだ。リーダーは「所長がほめてたぞ」と本人に伝える。本人は喜ぶ。これもけっこううまくいった。
気をよくした私は、女性の営業で優秀な宮田さんのことを、同僚の白井さんにほめた。2人とも20代前半の女性で仲が良いと聞いていたからだ。白井さんは笑顔で私の話を聞いていた。ところが翌日、私は親しくしている営業所長からとんでもない電話をもらった。
「営業の宮田さんと不倫でもしてんのか?」
「えっ! 何言ってんだよ! んなことあるわけないだろ!」
「だって、うちの所長は宮田さんをひいきしてる、って話が耳に入ったぞ」
私はびっくりした。実は、白井さんと宮田さんは仲が良いわけではなかったのだ。白井さんは宮田さんにライバル心があり、夜のうちにあちこち電話でもかけたのだろう。所長と何かあるんじゃないかという尾ひれまでつけて。
『うーん、テクニックに走るとダメだな。相手の成功のために行うという心から離れていたからだ』
第四話「叱るほめる」 終わり